本の紹介

           
  春は、始まりの季節です。新しい何かを始めたり、新たな出会いが訪れたりと、自分自身の立ち位置や周囲の環境の変化に刺激を受け、これから先に明るい展望が開けていくような予感に心が躍ります。
  しかし、この春の浮足立った感覚を一端脇に置き、より広い視野で世の中を眺めてみると、この1年ほどの間に起き、現在も進行中の社会環境の大きな変化と自分の将来とを切り離して考えることの無理に気付かされます。数年前までは当たり前だと思われていた価値観が崩れ、そのような価値観を基に設定されていた展望が無効になってしまった社会、それが私たちの日常の土台となっています。
  かつて多くの人々の憧れの対象であった「未来」のイメージは、科学技術の発展が幸福をもたらすことに対する無条件の信頼に下支えされたものでした。そのような信頼が揺らぐ今日、「未来を考える」とはいかにして可能になるのでしょうか。過去を知り、「未来」について考えるための3冊を紹介します。


 1851年、第1回目の万国博覧会がロンドンのハイド・パークで開催されました。各国の威信をかけ、技術の粋を集めた建築物や最先端の科学技術が数多く展示される万国博覧会は、その時代における輝かしい「未来」を象徴しています。その意味において、万国博覧会の歴史は、時代時代における理想の「未来」の歴史であると言えるかもしれません。
  第2回目以降、万国博覧会は1853年にニューヨーク、続く1855年にはパリで開かれましたが、この時点までは日本からの参加者も、出品物も記録されていません。日本と万国博覧会との関わりが出てくるのは、1862年、ロンドンのケンジントン公園で開催されたもの以降です。1862年には幕府の遣欧使節団が会場を訪問し(p.191)、イギリスの初代駐日公使により自ら日本で収集した品々が出品されました(p.143)。
  本書には、万国博覧会が始まった19世紀半ばは「交通・通信の発達によって、世界的コミュニケーション網が完成する前夜であった」(p.13)と述べられています。日本も一足遅くその波に乗り、1867年に幕府・鹿児島藩・佐賀藩が、1873年には明治政府が、万国博覧会への正式参加を果たしました(p.191)。そのようにして日本に宿った大きな夢が、それから100年程の後、「大阪万博」という夢の舞台で花開きます。



 1970年に大阪で開催された日本万国博覧会(英:Japan World Exposition)、別名「大阪万博」は、日本主催による初の万国博覧会であり、また高度経済成長を達成した日本がつかんだ夢の具現化でもありました。本書では、「高度成長のシンボルとして六四〇〇万人の動員に成功した大阪万博」(p.43)で表現された「未来」の姿、また開催に至るまでの経緯や社会的な影響などについて様々な切り口で語られています。
  「大阪万博がもともとの丘陵地形や竹林、そこに生息していた動植物を徹底的に消し去った後に現出させたのは、まぎれもない幻想の未来都市であった」(p.98)とする本書は、「万博開幕にあわせて運転を始めた敦賀原発一号炉からの送電」が「大阪万博」に光を灯し、そしてその開幕からおよそ1年後、福島第一原発一号炉が運転を開始した事実を提示しています(p.19)。
  「大阪万博」に表われた「未来都市」は当時多くの人々を魅了しましたが、一方でそのような「未来」を疑いの眼差しで見つめる人々も少なからず存在していました。そして今日、そのような懐疑的な視点は、多くの人々の共感を呼んでいます。


 
 東日本大震災とその後の福島第一原子力発電所事故を経た現在の状況を、「過去の歴史のなかに秘められた未来の種子」が「最も危機的なすがたで開花している」(p.8)と形容する本書は、「未来」を再構築するための知恵をSF(サイエンス・フィクション)の中に求めています。作家や研究者、映画監督などが、それぞれのSF体験を踏まえ、「3・11」以降の日本の現状や今後の行く末について、独自の視点で考察しています。
 本書において、SFとは「人間と、人間が作る社会と、人間が扱えると信じる科学のかかわり」(p.8)を描くものであるとされ、その価値を再評価し、そこから何かを学び取ろうとする試みがなされています。最先端の科学技術により理想の「未来」を作るという巨大な欲望のもつ危うさを、これ以上ない程に突きつけられている今日、新たな「未来」を作るための新たな価値基準が求められています。

 

[ 前に戻る ]

ホーム

開館日カレンダー

  • 2017年11月
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  
9:00~20:00
9:00~17:00
閉館日
・11/4(土)、11/18(土)は、閉館します〈蔵書整理日〉

蔵書検索 携帯電話からも蔵書検索できます