本の紹介


 大空に立ちのぼる入道雲を見上げると、見慣れているはずの空がいつもよりも高く感じられます。空高く飛ぶ鳥を目で追うと、空の広大さに改めて気づかされます。
 ある物事の存在を意識することで、世界がいつもとちがって見えることがあります。そのような存在を見出すことができるのは自然の中だけではありません。人の手によって作られた物事も、時に見聞きする者の価値観を大きく揺さぶる力を持ちます。
 いわゆる「アーティスト」とは、そんな力をもつ何かを作り上げることに情熱を傾ける人々のことを指します。今回は、アートにまつわる3冊の本を紹介します。

 まず表紙カバーの写真に目を奪われます。大空に浮かぶ個性的な形をした白い物体は、私たちのよく知るあの乗り物にそっくりです。本書では、八谷和彦氏(佐賀出身のメディア・アーティスト)によるプロジェクトのひとつに焦点を当て、その制作過程や美術館での展示の様子などを多くの写真を交えて解説しています。
 「オープンスカイ」と名付けられたこのプロジェクトは、「宮崎駿氏原作のコミック/アニメーション作品『風の谷のナウシカ』の劇中に出てくる架空の航空機“メーヴェ”の機体コンセプトを参考に、それを“本当に飛行可能な航空機”として試作し、試験飛行を試みるもの」(p.5)と説明されています。このプロジェクトは、多くの専門家の協力を得て機体を作り上げることに止まらず、出来上がった機体に実際に八谷氏自身が乗って試運転をする過程などを経て、現在も進行中です。私たちの日常感覚を切り裂くその機体は、いま現在日本のどこかの空を飛んでいるか、あるいは静かに次に飛ぶ日を待っています。 


 “現代アート”と聞いて、皆さんはどのような作品を思い浮かべますか。アートの世界で注目を集める23人の日本人アーティストへのインタビューが収録されている本書は、“現代アート”と呼ばれる作品群の方向性や傾向を指し示すものではありません。そこから浮かび上がるのはむしろ全体としての得体の知れなさ、強烈な個性を放つ作品の数々を内包する“現代アート”の混沌とした現状です。
 前出の八谷和彦氏はインタビューの中で、「メーヴェ」が「兵器ではなく調停のものとして」描かれていることに触れ、「調停や調和を象徴する作品」を作りたかったと語っています(p.272)《※「オープンスカイ」が始動したのはイラク戦争が始まった2003年》。また、「“メーヴェ”をつくろうとしている人がいるという事実で…この世界があまり好きじゃない子を助けたいと思ってるのかもしれない」(p.273)とも述べています。このように、作品のオリジナリティーを追求するのではなく、作品のモチーフや創作プロセスに思いを託して何かを表現しようとする姿勢は、他のアーティストの語りからも読み取ることができます。ただ単に作品を眺めるのでなく、そこから派生する多種多様な情報にアンテナを張り、作品の向こう側を見通すことのできる観客の存在が光となり、“現代アート”と呼ばれる茫漠とした世界の輪郭をかすかに照らし出しています。


 出会いの記憶は、それが印象的なものであればあるほど、その場所の景色や雰囲気の記憶と深く結びついています。アート作品との出会いにおいても、それがどこでどのように展示されていたかが大きな意味を持ちます。今日、人とアートとをつなぐ場である美術館は、単なる無機質な展示スペースとしてのみ機能しているわけではありません。時に展示作品そのものよりも見る者にインパクトを与える美術館が、多数存在します。本書では、ここ10~20年ほどの間に建てられた日本各地の美術館が紹介されています。またそれらの設計に関わった建築家たちが、美術館という場に対するそれぞれの思いを語っています。 
 「国際芸術センター青森」(p.16)や「地中美術館」(p.117)を設計した建築家の安藤忠雄氏は、美術館を「自分を発見する場所」であるとし、「何かを発見したあと、さらに見る人の創造力にも刺激を与えられるような美術館」が望ましい(p.74)と述べています。
 これから長い夏休みが始まります。日本各地に点在する「美術空間」を巡る旅に出かけてみませんか。 
 

 

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