本の紹介




 2010年ももう終わりに近づいています。今年は2月にカナダ・バンクーバーで第21回冬季オリンピック、6月に南アフリカで第19回FIFAワールドカップが開催され、多くの人々の声援とともに「日本」や「JAPAN」、「サムライブルー」などの言葉が飛び交いました。日本の代表選手が世界の強豪に挑む姿に、日頃あまり意識することのない日本人としてのアイデンティティーを刺激された方も多いのではないでしょうか。
 日本人としての自分を意識することは「日本」とは何かを考えることにつながります。今回は「日本」をより深く知ることのできる3冊の本を紹介します。


 1603年から265年間もの長きにわたって続いた江戸幕府(徳川幕府)の時代、大きな戦や社会変動のない比較的安定した世の中のもと、多種多様な文化が花開きました。「俳諧、狂歌、読本から黄表紙までのあらゆる小説、絵画、浮世絵、落語、博物学、医学」などのジャンルが生まれ(p.10)、それまでは上流階級の人々にほぼ独占されていた文化や学問がしだいに庶民のあいだにも広がっていきました。
 葛飾北斎が描いたような江戸の「賑わい」が「祭りの賑わい」や「豊かさ」だけでなく「多様性」を象徴している(p.339)とする本書では、その時代を謳歌した人々の個性的な生き様が色鮮やかに描き出されています。本書ではまた、その頃各地に発生した数多くの知的コミュニティー、「連(サロン)」(p.10)の存在が豊かな文化を育む土壌になったことが指摘されています。身分や立場を超えた多様な「ネットワーク」の誕生が、新しい「日本」へと大きく羽ばたいた幕末の人々の原動力になったことは言うまでもありません。様々な考え方をもつ人と人とのつながりの中で、今日のような「日本」の形が作りあげられていったのです。


 「グローバル経済」の名のもとに世界各国が緊密につながりあっている今日、西洋人であるか東洋人であるかという違いは経済レベルでは瑣末な問題になりつつあります。メディアの発達により、世界中どこにいても同じようなファッションを嗜好し、同じような料理を食べ、同じような音楽を聴いているという様に、文化的にもグローバリズムは確実に進行しています。しかしそれでもなお、各国の間に容易には混じりあうことのない何かが存在していることも事実です。
 本書では、心理学者である著者がさまざまな事例を取りあげ、「西洋人」と「東洋人」との間に潜む深い溝をあぶり出しています。個を重んじる「西洋人」と個の集合体の調和を重んじる「東洋人」との間にはその世界観に大きな開きがあります。何千年という歳月を経て形成されたそれぞれの価値観は、「グローバル経済」という波に流されてしまうほどに脆いものではありません。歴史上もっとも国と国とが相互依存している今日、お互いに共存していく道を模索するうえで、それぞれの「思考の違い」について考えることの重要性はますます高まりを増しています。


 大量生産・大量消費・情報過多の時代が進むにつれて表面的には衰退してしまったかにみえる「日本」の伝統が、携帯電話にストラップをつける習慣(p.92)やコスプレ文化(p.234)の中に息づいている―本書ではこのような新鮮な切り口で今日の「日本」の姿が浮き彫りにされています。それぞれのやり方で「日本」とは何かを探求しつづけている二人の対談は、教育や食文化、宗教などの様々な問題に触れながら、かつての多様で豊かな「日本」の姿、そしてそのような「日本」を作りあげた力の源、「日本力」を取りもどす道を示唆しています。
 「日本力」とは「知覚身体に宿すべき力」(p.10)であるとされ、本書では「日本」について「情報を集めるだけでなく、声を出すとか、触るとか、人の話をよく聞くとか、いろんなことを体験しておくこと」(p.203)の必要性が強調されています。時に世界に挑むことも大切ですが、その前にもう一度じっくり「日本」と格闘し、世界と対等に渡り歩くための「日本力」を身につけるべきなのかもしれません。

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