はじめに

 平成 17年6月食育基本法が制定され、厚生労働省と農林水産省は日本版フードガイド〈食事バランスガイド〉を策定しました。平成18年3月の食育推進会議(会長:内閣総理大臣)で食育推進基本計画が決定され、食育推進の目標の一つに「〈食事バランスガイド〉等を参考に食生活を送っている国民の割合」を平成22年度までに60%以上を目指すことが挙げられました。

最近あちこちで目にするようになった、図のような逆三角形のコマ型のイラスト。これが〈食事バランスガイド〉で、私たちが1日に「何を」「どれだけ」食べたら良いのか、望ましい食事の摂り方とおおよその量がわかりやすく示されています。毎日適量摂取する必要があるものをコマ本体に示しており、摂取量の多い順に上から、主食 (ごはん、パン、麺)、副菜(野菜・茸・芋・海藻料理)、主菜(肉・魚・卵・大豆料理)、牛乳・乳製品、果物、大切なコマの軸は水・茶になっています。ヒモで示された菓子や嗜好飲料は「楽しみ程度に」が基本で、コマの上を走っているヒトは、コマを安定して回転させるのに運動が欠かせないことを意味しています。

 とはいえ、毎日〈食事バランスガイド〉に示されているような食事をしなければならない、ということではありません。コマをイメージしていただけば、コマは回らないと倒れてしまいますが、回り始めると揺れながら、結構傾いても倒れずに回り続けるものだとういうことがおわかりになるかと思います。しかし、食事コマを上手に操らないと、傾き過ぎ (バランスが悪く)て倒れてしまったり、回転が速(食べ)過ぎて目が回ったり、逆にゆっくり(摂取不足)で止まってしまうこともあります。食事は美味しく楽しくとりたいものですが、好きなものばかり食べて、いつもどれかが足らないような状態が続くと、食事コマは耐えきれずに倒れてしまいます。食べ過ぎたら次の食事で控えるなど、コマが倒れないように、上手にバランスを取ることが大切です。

現代は子どもからお年よりまで、女性も男性も 1人1人が、自分の健康は自分で守らなければならず、健全な食生活を実践するための食に関する知識と、食物を選択する力を身につけなければなりません。〈食事バランスガイド〉は、だれにでもわかる、だれにでも使える、賢く選んでおいしく食べるための健全食生活支援ツールです。

今までのとっつきにくかった栄養指導と違って、目でみてわかるというのが〈食事バランスガイド〉の最大の特徴です。何をどれだけ食べれば良いのか、自分が食べている物が「多い」のか「少ない」のかを知る手段として、またフードビジネスにおいては、提供する料理の栄養バランスをわかりやすく示す手段として、〈食事バランスガイド〉を健康づくりのための食環境整備に役立てて頂ければと思います。

 

 

 

おわりに

 食事は「生きるため」に必要であると同時に、「楽しむため」に必要なものです。一生懸命頑張った後の食事はご褒美であり、何より楽しみなものです。食べる喜びを感じることで、「今日もいい一日だった」「生きていて良かった」という安らぎや幸福感を覚えます。そのような食事を共にする家族は何より大切なものであり、楽しい食卓があれば、家庭崩壊などは考えられません。心身の健康には「何を食べるか」だけではなく、「どのように食べるか」が大きく関わっているからです。「楽しい食事」が一番大切ではないでしょうか。

笑顔がいっぱいの食事には、私たちの体と心の栄養素がたくさんあります。朝食は「今日もがんばるぞ!」の元気の 素 ( もと ) 、昼食は「楽しい1日」の活力の 素 ( もと ) 、夕食は忙しかった1日を終えて「お疲れ様!」の疲労回復の 素 ( もと ) になります。  バランスのとれた食事は、体づくりと心身の疲労回復にも大変役立ちます。

また、用意された食事に感謝し、〈食事バランスガイド〉のかわいらしいコマを思い浮かべて、よく味わって召し上がってください。「コマの一番上の主食は足りている? 野菜料理(副菜)がちゃんとある? 油を使った料理や肉の量は多すぎない? 今日は牛乳を飲んだ? 果物はとった?」、そして菓子や嗜好飲料の多い「ヒモ」人間になっていないか、食べ過ぎたら「運動!」、「水やお茶も忘れずに!」と、自問自答してみることで、きっとあなたの食生活は健全なものになることでしょう。

このように、〈食事バランスガイド〉は目の前の料理で考えることのできる、わかりやすい栄養教育ツールです。この日本版フードガイドの策定に関わることができた幸せに感謝します。このような機会を与えてくださった、フードガイド (仮称)検討委員会の吉池信男先生(座長)他、厚生労働省・農林水産省の関係者の皆様、研究を支え積極的に食育推進に関わってくれている歴代の助手(松永泰子さん、梅木陽子さん、久野真奈見さん、石橋厚美さん)と研究室スタッフの皆さん、連携協力してくださっている(肘井千賀さん、柴田道世さん、坂田郁子さん、田崎陽子さん、竹元明子さん、他)多くの皆さんに心から御礼申し上げます。

また、福場博保先生、島田淳子先生他お茶の水女子大学大学院でお世話になった先生方、倉恒匡徳先生、吉村健清先生、池田正人先生、他九州大学大学院医学研究科在学中から今日までご指導くださっている先生方、そして終始陰ながら私を支えてくれている家族に深謝します。

 さらに、本書の執筆、出版に当たり、ご支援ご尽力くださいました、 (社)農山漁村文化協会の鈴木敏夫様、八田尚子様、阿久津若菜様に厚く御礼申し上げます。