本の紹介

本の紹介


 みなさんが生まれて一番初めに口にした言葉は何ですか?それまで「あー」や「うー」しか言うことのなかった我が子が覚えたての言葉で懸命に何かを伝えようとする姿は、きっとそばにいるご両親の心を感動で熱くしたにちがいありません。
  子供たちはまだ少ない語彙を駆使して実にさまざまなことを伝えようとします。近所の公園から幼稚園、小学校へと少しずつ生活の舞台が広がっていくなか、子供たちはただ頭の中にあるものを誰かに伝えるためだけでなく、そばにいる人々と何かを分かち合い、関係性を深めるための手段のひとつとして言葉を用いるようになっていきます。そしてそのようにして育まれた「言葉の力」を糧として、大人への階段を一歩ずつ上っていきます。
  今回は「言葉」にまつわる3冊の本をご紹介します。


 左側からめくると「あさ」という絵本、右側からめくると「朝」という詩集になっており、1冊で2冊分楽しめるとてもユニークな本です。
  左側から2回めくると現れる“おひさまのてがふれると/よるははずかしがって/あかくなる”(夜明けに空がほのかに赤らむ様子を詠んだもの)という一節からもわかるように、日々繰り返される「あさ」の風景が抒情的な写真とともに新鮮なまなざしで切り取られています。
  絵本のページに連なる「あさ」の描写が無邪気で純粋な幼児性を感じさせる一方、右側からつづく「朝」のページは視野の広い成熟した感性を想起させます。このように同じ作者の発する言葉であっても、どのような視点をとるかによってその色合いは大きく変化します。
 
 シュタイナーやルソー、ゲーテやホイットマンなどの名立たる思想家や詩人たちが「自然」について述べた言葉の数々が収められた本書からもまた、多種多様な視点が言葉によって描かれる世界のイメージを変容させる様を見ることができます。
  人はまず自分の身近にあるものに言葉を与えようとします。日々くり返される日の出や日没、朝昼晩の食事や道端に咲く花々などの些細な物事も、言葉で描写するために注意深く眺めると、それぞれが特別な価値を帯びていることに気づかされます。言葉を発することはこのように今まで気づくことのなかった視点を獲得し、新たな世界を知ることにもつながります。


 本書にはこれまでに出版された数多くの岩波文庫の中から厳選された名句が収められています。作家や思想家のものだけでなく、著名な科学者や画家の書いた文章などからも多く引用されており、1ページ1ページに重厚で趣のある雰囲気が漂っています。
  「木々の木の葉が一枚のこらず舌であるとしても、わたしのこのおもいを語りつくすことはできまい。『グリム童話集』」(本書163頁)という一節はまさに「言葉」とともに生きることの本質をとらえています。昔から人々は物事を「語りつくすこと」へのもどかしさを常に感じながらも「わたし」にしか語り得ない何かを探求し、それを発信しつづけてきました。時代を超えて伝わる先人たちによる言葉の数々には、人と人とをつなげる「言葉の力」に希望を託した彼らの熱い思いが込められています。



 

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