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2023.04.03お知らせ
向井理事長・学長 入学式式辞
二〇二三年度(令和五年度)福岡女子大学第七十四回入学式及び大学院第三十一回入学式 式辞
 
 ご来賓各位のご臨席を賜り、ここに福岡女子大学及び大学院入学式を、一堂が揃って、挙行できますことを大変うれしく思います。
 
 学びの場を求めて遥か海外から来られた留学生を含む学部新入生247名、大学院生博士前期課程16名、博士後期課程3名、あわせて19名、お一人お一人を心から歓迎いたします。また、海外の交流協定校から派遣され、現代日本文化を学ぶ国際プログラム(WJC)に参加される16名の留学生、そして同じく協定校から学部受入交換留学生として日本語で専門課程を学ぶ10名の留学生、あわせて26名の留学生が、この式典に参加されています。ようこそ福女大(FWU)にお越しくださいました。
 
 パンデミックによる学校の突然の休校措置とそれに続くオンライン授業、二転三転する大学入試制度など、激しい環境の波にもまれながらも勉学に励まれ、難しい入学試験をくぐり抜けて、晴れて合格された皆さまに特別の祝意を、またお子様の志を支えてこられたご家族、そして支援を惜しまれなかった先生方には労いの言葉を表したいと思います。
 
 入学された皆さんの喜びと同様に、福女大も今年はお祝いの年となりました。創立100周年の記念の年です。100年を擁す大学の歴史の中に、一緒に立つことになります。この巡り合わせを幸運とし、ともに喜びたいと思います。
 
 私たち福岡女子大学はプライドをもって教育活動に当たっています。その「誇り」の始まりは建学の経緯にあります。私立大学には、学祖と呼ばれる学校の創始者がいます。たとえば、慶應義塾の福沢諭吉、早稲田の大隈重信です。なんとお二人は、それぞれ大分と佐賀の出身、この九州の地から、日本を代表する大学が創設されたのです。では、本学はといえば、草の根の市民運動から、つまり福岡の女性たちが高い教育を求めて、立ちあがったところから誕生したのです。1923年(大正12年)のことでした。日本初の公立女子専門学校です。本学の学祖は福岡の女性市民なのです。九州は、教育の上で、その情熱のなんと熱いことか、また土壌のなんと豊かなことか。それを思い知ります。
 
 本学の稀有な建学の精神―「ないものを描く、ないものは創る」―この気概は忘れられることなく、学校文化の中核をなし、すべての学生、教職員、卒業生の拠りどころとなっています。入学を果たされた皆さんにも、この福女大スピリットを持っていただくこと、これが大きな約束事です。建学の気概と志しは言語化されて、「次代の女性リーダーを育成」という大学の基本理念になって、今日に至っています。
 
 さて、100年前の創設期に立ち戻ってみましょう。初代の校長は、「リファインされた女性たれ!」と訓示しています。学校の教育目標に、「温良貞淑ナル婦人ヲ養成スルヲ以テ目的トス」と記載され、いわば「良妻賢母の育成」でありますが、洗練された女性に相応しい教養と高度な知識、そして振る舞いを修得させることでした。今に言う共通基盤教育科目として、修身や哲学、数学があり、外国語には英語が、そして後にはフランス語が講じられ、「国語」の授業においては有職故実が扱われ、淑女に必要な社交の知識と礼儀作法の修得が課されていました。また、家政科の専門科目では、「栄養学」と並び「病人食」の授業が3年間にわたり必修とされています。当時、健康と病は、公(おおやけ)が担う社会的課題ではなく、私的な仕事、つまり家庭が管理する、なかでも女性が伝授される知識のもとに世話をするものと考えられた社会の反映なのでしょうか。
 
 3年制の文科と家政科、その上に1年制の研究科を持つ学校は、時代とともに成長し、1950年に4年制の大学に昇格し、あらたに大学院を併設した後、2011年には、学部・学科の再編により、現在の国際化と文理統合教育を重視する大学に生まれ変わりました。大きな目標は、既に述べたとおり、「グローバルリーダーの育成」であります。そのために、地域や国籍、文化の違いを超えて、共に暮らし、共に学ぶ「国際学友寮なでしこ」での寮生活があります。海外に飛びたつ、多様な留学制度があります。また、知識を裏打ちする、豊富な体験学習もあります。みなさんには、専門領域を究めるとともに、こうした舞台を大いに享受して、成長を図っていただきたいと思います。
 
 今、社会に、そして大学教育に、大きな波が押し寄せています。第2のグーテンベルク革命と言われる、デジタル世界の到来です。身近な例をあげれば、コンピューターの端末に向かって、「入学式の祝辞、環境科学、大学生対象、3000文字」などの指示を与えれば、個性的な文章ではないものの、論理的な構成で、専攻領域に相応しい、ほぼ満足のいく式辞を、人工知能(AI)がすらすらと書いてくれます。また、機械翻訳のアプリは、いとも簡単に日本語を外国語に移し替えてくれます。こうした中で、「シンギュラリティ(技術的特異点)」という新しい言葉と概念も生まれました。人工知能(AI)が私たち人類の知能を超え、それにより人間の生活に大きな変化が起こる、というのです。
 
 備えとして、ITの知識と技術を身につけることはもちろん必須でしょう。しかしそれだけでは、事たりません。機械的処理はロゴス(論理)の操作が得意です。しかし、そこにパトス(感情)を付与できるのは、私たち人間です。シンギュラリティを迎える、と簡単に言わせないためにも、先の例でいえば、AIが作り出したエッセイを、さらに考え直し、洗練させ、人間味のある、私だけのエピソードを交え、個性ある文章に仕上げる努力(アナログ的な努力)が必要です。腰を据えて考えを深める、個性を磨く、そしてそれを活かして自分起点の価値づくりを行う。こうした能力を本学で磨きましょう。これからの社会で、主体的に生きるための大切な要件です。
 
 福女大は、他に先駆けて、感性を鍛える学びの場と機会の提供を宣言しています。「環境は、いま一人の教師」の言い伝えにあるとおり、福女大は図書館棟や講義棟にたくさんの芸術品を設置する、キャンパス自体が開放型美術館となっています。これまで、高等教育は論理思考と批判的精神を鍛えることに力を注いできました。そして、今、振り子は逆に振れ始め、個人の関心、個人の感性、個人の価値観を重んじ、究める方向に舵が切られようとしています。論理思考を得意とするデジタル世界に備え、それを凌駕するためです。
 
 最後に、福女大独自のコンセプトを紹介し、共有していただきたいと思います。一つは、FWU on the Moveの合言葉です。学生、教員、職員、卒業生の4つの輪が一緒になって駆動する福女大の姿を表しています。大学の躍動に、学生の皆さんが中心を担う気持ちをもって、積極的な参加・提案をお願いします。今一つは、福女大は、アカデミック職能集団としてのギルドである、という意識です。ギルドのメンバーとなった皆さんには、他にはない特権が待っています。福女大ギルドの誇りを持ち、寮生活を通して同朋意識を強く持ちながら、豊かで刺激に富む学園生活を過ごされることを祈念して、式辞といたします。 
                                    
 令和五年四月三日 
 
公立大学法人福岡女子大学
理事長・学長 向井 剛