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6月2日 第1回 導入講座 大澤寅雄氏 特別講義「アートマネジメントの全体像について等」

2018年06月23日活動報告

本年度のアートマネジメント人材育成事業の導入講座がスタートしました。
 
それぞれがアートと自分の、これまでとこれからの関わりについて考える、とてもいい時間になりました。
 
当日の様子をレポートしたいと思います。
 
 
6月2日の晴れた昼下がり、21名の受講生を迎え、本年度事業の導入講座がスタートしました。
 
今年で3年目を迎えるアートマネジメント人材育成事業。
まずは事業責任者の森田教授より事業の経緯や過去の実践のお話がありました。
 
福岡女子大学は、感性を学ぶ教育を行うとともに、社会、地域の文化芸術の振興に役割を果たしたいという思いから、2年前に大学美術館を設立しました。
 
その中で、地域と連携し、大学美術館という場所や寄贈作品を活用してもらいたいと、平成28年度よりアートマネジメント講座を始めました。
 
様々な講師によるアートマネジメントのレクチャーに加え、受講生による企画実践を行い、平成29年度後半からは「文化芸術のまちづくり10年ビジョン」に基づき文化芸術活動を推進する宗像市と連携し、「障がい者とアート」というテーマで、実情やニーズを知るための調査を行ってきました。
  
本年度は文化庁から大学における文化芸術推進事業に基づく支援を受け、いよいよ、宗像市をフィールドに、障がいの有無に関わらないアートの楽しみ方を分かち合う場をつくる講座が動き出します。

 
事業紹介の後は事務局スタッフもごあいさつ。
 
関心を持って集まってくださった皆さんを前に、これから始まる時間に期待が膨らみました。

   
ごあいさつの後は、いよいよ特別講義です。


大澤寅雄さんから「そもそもアートマネジメントとは?」というわたしたちの疑問や、日本の文化政策の流れを分かりやすく、かつ詳しく伺うことができました。
 

◇◇特別講師 大澤 寅雄さんのご紹介◇◇

  
旧知の仲である事業マネージャーの古賀さんより、導入のための特別講師に最も相応しいとご紹介させていただいた大澤寅雄さん。ニッセイ基礎研究所の芸術文化プロジェクト室で文化政策やアートマネジメントに関する調査研究、劇場の事業評価などに取り組まれています。

今回のテーマは「アートマネジメントの全体像について等」。
「アートマネジメントの全体像」をお話しいただく上に、「等」をつけてもっと深く広くお話をお聞きしようという欲張りな内容です。


 
 
 ◇◇アートマネジメントの全体像について◇◇

 
まずはアートマネジメントの全体像についてのお話しをお聞きしました。

日本では1990年代以降、公立文化施設の急増とともに人材育成の必要性が高まり、アートマネジメントが普及していきました。アートマネジメントには、芸術と社会の橋渡しという広い意味と、実践的な技能や企画ノウハウを指す狭い意味があります。

大澤さんが「うまいこというなぁ」と表現する、大澤さんの師でもある慶應義塾大学の美山良夫先生の定義もお聞きしました。

   
理解が深まっていくにつれ、「そもそもアートマネジメントとは何なのだろう」という疑問に対する答えが見えてきます。
 
 
  ◇◇文化政策と社会背景の変化◇◇
 
 
続いて、本日のお題の「等」の部分。文化政策と社会背景はどのように変化してきたのか、というお話しへ。
  
文化消費が加速していった1980年代、アートマネジメントの草創期1990年代。文化の担い手が多様化していった2000年代、横断的な文化政策が見られるようになった2010年代。

  
「私が生まれた年にこんなことがあったのか」
「できたばかりの劇場に足を運んだ頃はこんな流れの中にあったのか」
大澤さんのお話を、それぞれの生まれた年やアートに関心を持った年と重ねながらお聞きました。
自分とアートが、なぜ、どう、関わってきたかが少しずつわかり始めます。
 
 
 ◇◇心豊かで多様性のある社会と包摂的環境◇◇
 
   
「文化芸術振興基本法(2001年制定)」から2017年に改称された「文化芸術基本法」は、本事業にも関わることとして、詳しく説明していただきました。
 
「文化芸術基本法」では、「振興」という言葉が抜けたことにより、振興にとどまらず各関連分野の施策が広く法律に取り込まれるようになり、文化芸術により生み出される様々な価値を文化芸術の継承、発展および創造に活用する、という趣旨も盛り込まれました。
 
文化芸術基本法に基づき、文化芸術に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため策定された「文化芸術推進基本計画(第1期)」には、今後の文化芸術政策の目指すべき姿の目標の一つとして「心豊かで多様性のある社会」が提示されています。
 
私たちが行う、芸術と社会をつなぐ人材育成事業のアートマネジメント講座は、まさにこの目標達成のための動きであると言えます。
 
  
さすが大澤さん、受講生のみなさんに伝わるようにこの事業の意義、アートマネジメントの必要性を伝えてくださいます。

     
本年度の当事業のテーマは「障がい者とアート」。
大澤さんは「包摂的環境」ということを考えたとき、それは障がいのない人と同じように障がいをもつ人に楽しんでもらうという考え方に限らず、例えば「耳の聞こえない人の音楽のありよう、その楽しみ方に手を伸ばす」という考え方もあるだろう、ということを話します。
 
その言葉はまさに、「多様な人たちのそれぞれのアートの楽しみ方を対等に知り合い、より深くアートを楽しみ豊かな社会に」という、当事業の目的と重なりました。
 
 
 ◇◇生態系として循環する文化◇◇
 
 
ここまでお聞きして浮かぶ疑問にも、大澤さんは答えてくれます。

  
「社会的価値が」「経済的価値は」などという言葉が出てくるということは、アートは社会の道具なのでしょうか。手段なのでしょうか。
 大澤さんは、アートは目的と手段、どっちでもある。どこかが目的、手段だけにはならず、あるときは本質的価値が力になり、社会的価値が支えて、経済的価値を高める、というように循環するものではないかと言います。

   
更に、生態系に地域を重ね合わせ、生産者、消費者、分解者が循環するように、文化芸術を通して繋がる環によって循環が生まれるようにすればいいのではないか。
では、その循環が生まれるようにするにはどうすればいいか、アートマネジメントも同様に考えればいいのではないのか。そうすれば、より多様な生態系となり、どんどん豊かになるのでは。
そんな考えを聞かせてくださいました。

  
様々な背景を持ちこの導入講座に集まった受講生にとって、アートと自分の関わりや、今後どう関わるかが見えてくる学びの時間になったのではないでしょうか。
どんなことを思い、その思いが地域と文化の生態系に、どんな影響を与えていくのでしょうか。
これから続く講座が、今後のアートを通じた関わりが、楽しみになるはじまりの時間でした。

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