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活動報告

7月20日 第2回施設見学「社会福祉法人 さつき会」

2019年08月08日活動報告

まだ梅雨が開けそうにない7月20日。「社会福祉法人 さつき会」の施設見学のため宗像市にある「はまゆうワークセンター自由ヶ丘」にやってきました。前回の「喫茶ポエム 福祉作業所」に続いて、2回目の施設見学です。
 
「さつき会」は「障がいの有無が気にならない社会」を目指して1996年に設立された障がい者支援施設。宗像市や大野城市など福岡県内に14カ所の事業所を構え、子どもから成人まで年齢にかかわらず、障がい者が社会の一員として生活できるようサポートを続けています。ここ「はまゆうワークセンター自由ヶ丘」もそのうちの一つで、就労移行支援、就労継続支援B型事業所です。

理事長の上田大地さん、そして「さつき会」の施設のひとつである「げんきっこくらぶ じゃんぷ」の職員の野口さんと野見山さんが対応してくださいました。
まずは理事長の上田大地さんに、「さつき会」のこれまでの歩みを語っていただきました。1982年、ケースワーカーとして病院に勤務していた前理事長の上田敏明さん(上田さんの父)が、当事者とより関われる場所を作るために立ち上げたのが、「さつき会」の前身「どろんこ農園」です。開園から4年後に誕生した上田さんは、施設の障がい者に子守をしてもらったり、一緒にキャッチボールをしたりと、身近に障がい者がいる生活が当たり前だったと言います。
 
その後、施設拡大のために「さつき会」として宗像郡玄海町(現宗像市)で支援施設をスタート。それから1〜2年おきに施設を増やし続けています。重度の障がい者のサポートから、就労前準備支援、未就学児への対応、小学生から高校生までの放課後等デイサービスなど、事業を幅広く展開しているのです。卒業して就労した後もサポートは続き、常に次のステップに進めるようにと応援しています。


 
「げんきっこくらぶじゃんぷ」では、障がいを持つ小学生から高校生が、就労するうえで必要な知識や能力を身につけられるプログラムを用意。社会人としてのマナーや日常生活の過ごし方など、座学はもちろん、法人内の大人向け事業所に出向き、車の部品を扱う作業や食品製造の作業、その他一般企業での作業実習もあります。
 



障がい者の就労で課題として上がるのが人間関係です。座学だけでは身につかないので、ゲームを通し、他人の意見を尊重してチームで協力する大切さを伝えています。受講生は「紙コップタワー作り」を体験することになりました。200個以上用意された紙コップを4〜5人のメンバーで協力して積み上げ、高さを競います。制限時間は5分で、積み上げ方は自由。受講生は4人組の2チームに分かれ、子どもたちの最高記録である167cmを目指します。
 
1分間作戦会議をした後、ゲームがスタートします。「この作戦会議がいちばん重要なんですよ」と野口さん。1分という限られた時間でどれだけチームで話し合い、積み上げ方を決められるかにかかっているのです。ゲームがスタートすると、2チームそれぞれ全く違った方法で積み上げていきます。Aチームは紙コップを2列に並べて土台を作り、そのうえにさらに積み上げる。一方、Bチームは1段目に正方形の土台を作り、さらに紙コップを乗せていきます。その形はまるでピラミッドのようです。両チームから笑い声が聞こえ賑やかな雰囲気のなか、タワーはどんどん高くなり、受講生の胸のあたりまで積み上げられました。
 
残り20秒、リードしていたAチームの紙コップの上部が崩れてしまいます。タイマーの音が鳴り響き、高さを測るとAチームは139cm。Bチームは115cmという結果です。どちらもタワーを安定させるために土台に紙コップを使いすぎて、紙コップが足りなくなってしまったようでした。良い結果を残せず少しだけ残念そうな表情を浮かべる受講生たち。ここで、2回戦があることが伝えられます。「このゲームは2回目が重要なんです。1回目の結果をどのように生かせるか。また、1分間の作戦会議の後にスタートします」。
 



2回目は、Aチームは一から、Bチームは既存のタワーを利用して再挑戦するようです。部屋のなかは静まり返り、受講生が集中しているのがわかります。Aチームはなにやら面白い組み立て方をしています。紙コップ7つで円を作り、その上に積み上げています。ピサの斜塔のようですが傾くことはなく、しっかりと安定している様子です。1回目とは比べものにならないほどのペースで、椅子を使わないと手が届かない高さになりました。Bチームは先ほどよりも土台を減らし、その代わりに上に乗せて高さを出していきます。
 

5分が経過。Aチームのタワーは天井に届きそうなほどに積み上がっていました。Bチームのタワーも1回目より高くなっています。測定するとBチームは163cm。Aチームはなんと213cm。最高記録を超えました。円柱形のタワーを前に、さつき会のスタッフたちも「今までに見たことがない」と感心しました。
 
勝利したAチームの代表者は「1回目で土台に紙コップを使いすぎていたので、土台を円形にして紙コップを節約し、積み上げていけないかと考えました」と話します。その発想に、部屋には感嘆の声が漏れます。
 
このプログラムは2回実施すると学習効果がとても高いと言われています。
実際に職員研修にも使われ、大人でもさまざまな効果が期待できるのです。組織を強くするにはどうすべきか、リーダーは必要ではないのか、良い成果を出すにはどう取り組めばいいか、絆を深めるには――。いろんな考えにつながります。
 
散らばった紙コップの片付けも「どちらが早く片付けることができるか」とゲームの要素を入れることで、自然と「協力すること」が身につきます。さらに、子どもたちにはルールを細かく設定することで、学ぶ機会を設けているのです。例えば順番などの「ルール」を学べ、「協調性」が身につく。ルールを追加すると「臨機応変さ」が養える。ドキドキハラハラといった感覚が周りとの「絆」を生む。リーダーになった子は「リーダー体験」になる。目には見えない、非認知能力を養う良い教材になっていると野口さんは締めました。
 
その後、施設内を見学しました。訓練・作業室が2部屋、指導訓練室と相談室が1部屋ずつあり、ここで、社会人のマナーを学んだり、仕分作業などの内職に挑戦したりしています。廊下には通所者たちが書いたイラストや、雑誌を切り抜いて作ったコラージュなどが貼られていました。カフェやパンの写真ばかりを切り抜いている人や、豪華な肉料理ばかりを集めた人、細かい花の塗り絵にきれいに色をつけている人などさまざまです。この飾られたイラストやコラージュを見るだけでも通所者たちがそれぞれ違った個性を持っているのだとわかります。



後に質疑応答の時間が設けられました。上田さんが用意したのは、施設の障がい者の方々が実習で作り、実際に販売しているクッキーとジュース。受講生たちは、クッキーを「おいしい」と微笑み合いながら味わっていました。



受講生の一人が「施設ではアートに対してどのようなニーズがあるのか」と質問します。上田さんは昨年のアートマネジメント講座を振り返りながら答えました。施設の一つである「げんきっこくらぶほっぷ」でのお面作りは、児童たちにとって良い経験になったようです。「完成したお面を数日間離さずに持ち歩いていた子もいました」と、はにかみます。「げんきっこくらぶじゃんぷ」は社会に出て行くための準備をする場所です。障がい者は大学に行く機会が少なく、今年はもっと大学を身近に感じられるような、昨年とは違うアプローチができるのでは、と話されます。「施設から飛び出していろんなことを経験して、そこから自分の夢が生まれるのも素敵ですよね」と上田さんは締めくくりました。



年齢や障がいの程度など、障がい者と言っても人それぞれ。なかには一般の人よりも何か特定の分野に長けている人もいます。受講生たちは彼らが過ごす空間を肌で感じて、今後の企画への期待がさらに膨らみました。
 
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