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9月28日 第2回 事例研究 「対話型鑑賞」

2019年10月16日活動報告

 9月28日、京都造形芸術大学アート・コミュニケーション研究センターで専任講師・副所長を務める岡崎大輔さんを迎え、対話型鑑賞が開催されました。対話型鑑賞とは、ニューヨーク近代美術館(MoMA:モマ)が教育プログラムとして開発したもので、一つの作品を複数人でじっくりと鑑賞し作品について感じたことや気づきなどを語り合う、鑑賞者同士のコミュニケーションを通した鑑賞法です。受講生の関心は大きく、期待で胸を膨らませながら講座がスタートしました。
 
まず対話型鑑賞を実践する前に、このプログラムを大学内外で実践されている岡崎さんにレクチャーをしていただきました。対話型鑑賞は作品鑑賞だけでなく、鑑賞者同士のコミュニケーションも深めます。同じ作品を鑑賞しても人によって感じることや湧き上がってくるイメージが異なると岡崎さんはいいます。「アートとは、作品と見る人の間に起こっている不思議なコミュニケーションであり『もの』ではなく『こと』です。見る人が変われば、コミュニケーションも変わる、一つの正解は存在しません」。
 
岡崎さんは続いて1枚の名画を受講生に見せました。作品はイタリアの美術家レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた油彩画『モナ・リザ』です。この作品について知っていることを受講生に尋ねると、作者名や作品の所蔵場所など作品にまつわる情報が多く挙がります。しかし「『モナ・リザ』に橋が描かれていることは知っていますか?」と聞くと、作品を何度も見たことがある、知っていると答えた受講生も口を閉ざします。ただ目に写っている状態と、意識をして鑑賞することは大きく違うのです。
 


対話型鑑賞では知識や情報だけで作品を見るのではなく、隅から隅まで観察してそこから思考を膨らませ、みんなで発見を共有しながら鑑賞を進めます。たとえるならバレーボールです。「私はこう思う」「それを聞くと私はこう見えた」と話をトスするように繋げていきます。「みる」「考える」「話す」「聴く」、この4つのサイクルを繰り返します。鑑賞を進めていく簡単なデモストレーションを終えると、いよいよ実践に入ります。

今回鑑賞するのは、福岡女子大学図書館内に展示されている福岡在住の彫刻家・片山博詞さんの彫刻作品です。一つの立像の前に全員で移動すると、さっそく「口元に動きはなく眉は下がっているから、何かを憂いているのではないか」「嬉しさと不安が入り混じっているように見える」「お腹に手を当てているのは、もしかして妊娠している?」「まっすぐに前を向いていて、静かな決意を感じる」と、さまざまな意見が飛び交います。15分間の鑑賞を終えたあと岡崎さんは、「みなさんが共通していたのはこの作品から『未来』のことを連想したことです。私はこの作品から『前を向いて生きよ、うつむくなかれ』という言葉が浮かびました」と締めくくりました。


 


全体鑑賞の後は個人鑑賞です。30分で館内にある作品を鑑賞し、そこから感じた作品の印象を言葉にします。そこから、3つのグループに分かれてそれぞれの感想を共有。1つのグループがファシリテーター、残りが鑑賞者となって再度全員で作品との対話を深めます。あるグループが選んだ作品は足先をそろえて少し前傾になった人物像。「空へ飛んでいるように見える」「いや、海の中にいるのでは」と意見が分かれました。また、表情一つとっても見る人によって少年に見えたり老婆に見えたりと、とても興味深い鑑賞となりました。






 






最後に岡崎さんは、「自分の視点だけが正しいと思うとコミュニケーションは繋がっていきません。これは日常のコミュニケーションも同様です」と語られました。

一連の講座を見学していた彫刻家の片山さんは、参加者の誰よりも満面の笑みを浮かべて「みなさんから出た意見のすべてに同感です。自分の作品からコミュニケーションが生まれていくことは嬉しいですね。これからも対話型鑑賞を深めてほしい」と感謝の言葉を語られ、講座は終了しました。
受講生にとっては、自分とは異なる見方や様々な視点からの捉え方があることを知る機会になり、またこれからグループで企画を作り上げ実施していく上での貴重な学びになりました。














 
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