研究テーマ
オランダの市民権/国籍,そこから派生するテーマについて研究しています。
・国民国家形成にともなう市民権/国籍の成立
・本国と植民地における市民権/国籍の歴史的変遷
・法律上の住民区分
・行政組織
・分権化
・植民地の過去をめぐる記憶の政治
・移民政策
・社会統合の議論からみる市民権概念の再定義
研究テーマの補足説明
オランダという国家が形成されるにともなって,国家は誰がオランダ人なのかを法律で定める必要に迫られます。
誰がオランダ人であるかを定める法律が,国籍法です。
国籍という考えの成立は,国籍を持つ者=国民,国籍を持たない者=外国人という境界線を人々の間に引くことになりました。
国籍を持つ者にはさまざまな権利と義務(=市民権)が与えられ,具体的に外国人との差別化がはかられます。
その国の国籍を持つ人にとって,代表的な権利と義務が参政権と徴兵でした。
市民権/国籍の成立は,オランダが領有していた植民地の住民にも及んでいきます。
オランダはかつて東インド(現インドネシア)と西インド(現スリナム,オランダ領アンティル及びアルバ)の植民地を領有していました。
こうした植民地に居住するさまざまな人にも,国籍の線引きがなされていくことになります。
これら植民地の独立後は,オランダ国内に移住してきた移民をめぐり市民権/国籍が問題となります。
日本でも在日朝鮮・韓国人の定住権が議論されていますが,オランダも同様の問題に面したのです。
経済復興にともない国内に居住するようになった旧植民地以外の国からの移民もそこに加わります。
現在のオランダは,一定の要件を満たすすべての外国人に定住権を与えています。
この定住権には,地方自治体の参政権がともないます。
定住権を持つ外国人は,地方自治体議会の選挙に投票できるだけでなく,立候補もできます。
オランダの市民権/国籍を調べることから,多くの興味深い事実を引き出せます。
歴史のある時期にオランダ人とされたり,そこから排除されていった人たちの物語。
現在のオランダ社会が直面している外国人との共生。
こういったテーマは今の日本に住む者にとっても他人ごとではないのです。
研究業績
・論文
「アンソニー・D・スミスのナショナリズム論:エスニー概念を中心として」『六甲台論集』法学政治学篇第45巻第2号,1998年11月
「国民国家における多文化主義の位置づけ:リベラリズムとの関連において」『平和研究セミナー論集』第2号,1999年4月
「オランダ国民の形成:一八五〇年国籍法の検討を通して」『神戸法学雑誌』第50巻第3号,2000年12月
「国民主義」『国際関係論のパラダイム』2001年,有信堂所収
「19世紀前半のオランダにおける国民意識の形成と展開:オランダ国民をめぐる問い」『日蘭学会会誌』第26巻第1号,2001年10月
「オランダ植民地統治と法の支配:統治法109条による「ヨーロッパ人」と「原住民」の創出」『東南アジア研究』第40巻第2号,2002年9月
「移民から市民へ:オランダ移民政策にみる統合パラダイムの転換」『日蘭学会会誌』第28巻第1号,2003年10月
「包摂と排除の政治力学:オランダにおける市民権/国籍の過去・現在・未来」『地域研究』第6巻第2号,2004年11月
「記憶の糸をつむぐ:奴隷制をめぐる本国と植民地」『帝国における植民地と本国』平成14‐16年度科学研究費補助金基盤研究(C)(1)研究成果報告書,2005年4月(報告書)
・報告書
「オランダの憲法事情」『諸外国の憲法事情U』国立国会図書館調査および立法考査局,2002年7月
・その他
「帝国の過去・小国の記憶:奴隷制の記憶の共有をめぐって」『創文』No.447,2002年10月
「オランダ政治の構造変動」日蘭学会会報,2002年
「20世紀の共同幻想」『日用品の20世紀』近藤雅樹編,ドメス出版,2003年3月
「奴隷制への補償:スリナム(旧オランダ領西インド)における事例」通信第114号,東京外国語大学,2005年7月
「ジャカルタから遠く離れて」京都大学東南アジア研究所ニュース,No.53,2006年12月1日〜2007年5月1日
・翻訳
「法律家養成と人種偏見」『神戸法学雑誌』第52巻第4号,2003年3月〈原著 C. Fasseur, Rechtsschool en raciale vooroordelen (Amsterdam 2001)〉
・学会報告
「ナショナル・アイデンティティへの視座」日本平和学会第2回平和研究セミナー,於:関西地区大学セミナーハウス,1998年8月24日
「オランダにおける市民権の変遷と現状−国籍との関連から−」日本平和学会2001年春季研究大会コミッション市民社会と平和,於:成蹊大学,2001年6月2日
「市民権概念の歴史的形成と変容 −オランダの事例から」日本国際政治学会2002年度研究大会トランスナショナル分科会,於:淡路島夢舞台,2002年11月17日(参照)
「統計思想の展開と制度化−オランダ中央統計局の設立過程」社会経済史学会第74回大会パネルディスカッション「近代統計制度の国際比較ーヨーロッパと日本におけるセンサスの成立と展開」,於:一橋大学,2005年5月1日(大会プログラム)
・研究会報告
「オランダ人の『境界』」第二回オランダ史研究会,於:大阪大学,2000年5月12日(詳細)
「オランダ領東インドにおける法的住民区分」支配の制度と文化研究会: オランダ領東インドにおける〈民族〉カテゴリーの形成と変容―オランダ人・ユーラシアン・中国人・ブミプトラ―,於:京都大学東南アジア研究センター,2001年12月18日
「オランダにおけるセンサスの歴史」センサスの比較研究:欧米と日本を中心に,於:国立民族学博物館,2003年12月13日
「植民地統治と住民区分−−蘭領東インドを事例として」旧日本植民地研究とデータベースの構築,於:国立民族学博物館,2004年6月19日
「奴隷制への補償:スリナム(旧オランダ領西インド)における事例」「『植民地責任』論からみる脱植民地化の比較歴史学的研究」プロジェクト研究会,於:東京外国語大学,2005年4月23日
「混血性をめぐって」通婚・雑婚研究会,於:東京ウィメンズプラザ,2006年11月17日
・講演
「オランダ憲法ことはじめ 〜あの国のかたち〜」2004年3月12日,於:日蘭学会
「オランダ王室ことはじめ 〜歴史と制度〜」2005年7月29日,於:朝日カルチャーセンター
「キンデルダイクの風車群 〜オランダの繁栄を支えたハイテク技術〜」2006年4月12日,於:朝日カルチャーセンター
「キュラソー島,ウィレムスタットの歴史地域 〜オランダ王国の光と影を映す旧植民地〜」2006年5月10日,於:朝日カルチャーセンター