森田 健  

人間環境学部教授
(専門分野)
環境生理心理学・住環境学



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住環境学研究室 (人間環境学部 生活環境学科)
 本研究室は住空間の大きさ、形状などの空間デザイン要素や光・照明環境を中心とする視環境要素を、人が知覚・認知し、評価する過程を研究しています。具体的には、子供から高齢者までを対象に@住まいの中で行われる種々の生活行動および生涯にわたる時間経緯の中で変化する住まいへの要求A人工光源を多用し、朝夕・四季の変化がない光環境がもたらすヒトの生体リズムへの影響、などを主な研究テーマとして取り組んでいます。以下に光と生体リズムに関する私達の研究成果の一部を紹介します。

 人は長い進化の過程の中で自然環境の変動と適応した生体リズムを獲得してきました。この中で約24時間の周期を持つサーカデイアンリズムは特に研究が進んでおり、その代表として体温とメラトニンホルモンがあります。これらのリズムの位相が環境の時間的流れと一致し、さらに振幅が大きく確保されることが健康で快適な生活を送る上で重要と言われています。光はリズムを整える同調因子としてこれらに強く関連していることが最近明らかにされてきました。

 昼間に受ける光の影響を確認するため、室温・湿度を一定にした人工気候室の中で昼間5,000lxの下で過ごした場合と薄暗い50lxの下で過ごした場合の深部体温を比較しました。その結果、昼非常に明るい光の下で過ごした方が、夜間の深部体温がより深く下がり、熟睡感が報告されました。夜間の体温がより低下することは、体温リズムの振幅を大きくし、メリハリのあるリズムを形成することは健康につながることから、日中に過ごす光環境の重要性が推測されます。

 また、夜間のメラトニン分泌増加は、体温の低下につながり、さらに良質な睡眠確保にもつながります。このメラトニン分泌挙動に光が影響することが明らかにされたのは約20年前です。1980年オレゴン大学のLewyらは、2,500lxの高照度光が夜間のメラトニン分泌を抑制することを見出しました。その後、これに関する多くの研究が行われ、日常の生活環境でも見られる400〜500lx程度の光の影響が報告されています。

 私達の身の回りにある光はその量(照度)とともに、光の質(色)においても種々のタイプがあります。生体リズムに対する光の影響は、量的な影響とともに質的な影響についても確認しておく必要があります。私達は夜間に蛍光灯のような白い光と白熱灯のような赤い光を浴びたときの体温とメラトニン分泌を比較しました。その結果白い光の体温・メラトニンへの影響が大きいことがわかりました。夜間の体温の低下、メラトニンホルモン分泌の増加に対して、白い光は抑制的に働き、夜間の休息・睡眠に対して、妨害作用をもたらします。しかし一方、これらの光は同じメカニズムで、朝の生体リズムの挙動、すなわち体温の上昇、メラトニンホルモンの分泌の減少に対しては促進的に働き、昼間の活動に向けた支援作用をもたらすことも明らかにしました。これらの事から特に高齢者・乳幼児や障害者など行動に制約を受けている人々、そして光環境を犠牲にした現代都市生活者は、夜の照明だけでなく、朝から昼の照明に配慮することが重要になると考えています。

 携帯型照度・活動計による
受光履歴・活動量と睡眠状況の分析例


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