発生生物学研究室
研究室構成: 講師 弓削 昌弘
助手 美濃部純子
大学院生 1名 4年生 3名
− 生き物のかたちづくりの不思議を分子の世界から明らかにする −
私たち人間を含めて、脊椎動物と呼ばれる動物の卵は、たいていまん丸です。このまん丸の卵のどこから頭やらからだができてくるのか、ちょっと目には見当もつきません。でも、卵が育っていくうちに、からだのいろんな部分をつくる場所が決まっていきます。この動物のかたちづくりには、遺伝子の命令でつくられるたくさんの分子が関わっていることが分かってきました。例えば、カエルの卵では、受精した後に卵の表面だけがちょとだけ回転します。このときに回転して表面が上がった場所が、将来の背中の骨格や脳を含む頭を作ります。この将来の背側をつくる部分の細胞の中身に、頭や背中をつくる分子がつくられているのです。それではそれはどんな分子なのでしょうか?私の研究室では、カエルの卵に遺伝子を組み込む技術や、細胞の中身を入れ換える技術を使って、動物のかたちづくりを決める分子の不思議なメカニズムを調べています。
I 研究概要
世界中には様々なかたちをした動物がいる。そのからだのつくりを見てみると、単純に見える動物にも、非常に精巧で複雑な形態が、実に見事な調和を持って存在している。ところが、その複雑な”かたち”を持つ彼らは、非常に単純なかたち(その多くは球形であるが)をした卵から生まれてくる。このようなかたちはどのようにして生じるのだろうか。私の研究室は、カエルの卵を使って動物のかたちづくりの仕組みを明らかにすることを目的としている。
その中でも注目しているのは、動物の背腹決定機構である。回転対象系の卵に、背腹軸が出現し、前後左右の方向性が決まってくることが、かたちづくりの始まりだからだと考えるからである。現在、主に以下の二つのプロジェクトを進行中である。
第一のプロジェクトは背側決定因子の同定と背側決定機構の解明についてである。まん丸で、どこが背になるやら腹になるやら分からない卵でも、受精直後に将来背側になる部分と腹側になる部分がきまり、卵の表面の色素の分布パターンからそれが予測できる。当研究室は、背側を決める情報が背側細胞質に存在することを、細胞質の移植実験で明らかにした。他の卵の腹側予定の部分に注射してやると、本来の頭や背中の他にもう一つ別の頭や背中(これを二次胚と呼ぶ)が出来たのである。現在、この背側を決定する因子の原因物質を精製中である。
第二のプロジェクトは、トランスジェニック技術を応用した、背側形成遺伝子の発現制御解析である。トランスジェニックとは、生物にある特定の遺伝子を組み込む技術だが、脊椎動物ではネズミや一部の哺乳類それにゼブラフィッシュなどでしか成功しておらず、しかもその成功率もかなり低かった。ところが最近になって、アフリカツメガエルの精子核に遺伝子を取り込ませた後に未受精卵に核移植するという方法で、非常に簡単にしかも高頻度でトランスジェニックをつくる事が可能になりつつある。私の研究室でもカリフォルニア大学と基礎生物学研究所と共同研究で、トランスジェニックを成功させた。
現在、GFPというレポーター遺伝子を使って、グースコイドという背側形成遺伝子のプロモーターの機能を解析している。
II 研究テーマ
1 脊椎動物の背側決定機構の解明
2 両生類胚の調整機構の解析
III 所属学会
日本発生生物学会、日本分子生物学会、日本動物学会 アメリカ発生生物学会
IV 共同研究
「トランスジェニックによる背側形成遺伝子プロモーターの発現調節機能の解析」
カリフォルニア大学アーバイン校 Ken W. Y.Cho 教授
「アフリカツメガエルを使ったトランスジェニック技術の開発とその応用」
国立基礎生物学研究所 上野直人 教授
V 研究発表など
1 Yuge M., Levine E., Amaya E, Cho K. W. Y.
A Transgenesis Approach for the Xenopus goosecoid
promoter/enhancer analysis
8th International Xenopus conference (2000)
2 Yuge M, Fujisue M, Kobayakawa Y, and Yamana Y
A Cytoplassmic Determinant for dorsal axis formation in an
early embryo of Xenopus laevis.
Development 110: 1051〜1056 (1990)
3 Yuge M, and Yamana K
Regulation of the dorsal axial structures in cell-deficient
embryos of Xenopus laevis.
Development Growth & Differentiation 31: 315〜324 (1989).