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10月3日 第2回 事例研究 「病院内の障がい者支援の新しい形」

2020年10月23日活動報告

秋風が吹く晴天の中、佐賀県基山町の医療法人清明会きやま鹿毛医院にある障害福祉サービス事業所PICFAを訪問しました。



アート通じて活動の場を広げ続けるPICFAの名称は、PICTURE(絵)とWELFARE(福祉)を合わせた造語で、アートと福祉の両方を追い求めることを意味するそうです。PICFAは日本で初めての病院内にある障がい者就労支援事業所であり、多様な人の交流を生む居場所として新たな可能性を示し、国内外から注目を集めています。


この日は会場として普段は休憩や食事、地域の人の憩いの場として利用されている多目的室をお借りし、PICFA施設長の原田啓之さんに「病院内の障がい者支援の新しい形」についてお話しいただきました。多目的室はメダカが泳ぐ大きな水槽が設置してあり、たくさんの植物に囲まれていました。「多目的室をジャングルのようにしたい」という原田さんの希望を知った地域の人たちが持ち寄ってくれたそうです。廊下には個性あふれるアート作品が飾られ、どこからか子どもの声が聞こえてきます。



病院を利用する患者さん、健康維持のためにトレーニング施設に訪れる高齢者の方々、託児所を利用する病院職員の子どもたち、そしてPICFAで活動する利用者やスタッフ。多様な人たちの居場所が一本の廊下で繋がっています。足を踏み入れた瞬間から、風通しがよくエネルギーに溢れていて、様々な人の命の気配を感じるこの場所を、原田さんが案内してくださいました。



まず案内されたトレーニング施設にはPICFAメンバーの作品である大きな絵が飾られていました。作品は彩りと活気を与えるだけでなく、地域の人とPICFAメンバーとの会話やつながりを生み出しているそうです。

面談や打ち合わせを行う相談室は、間接照明を用いて薄暗くして休憩や明るい場所では落ち着かない気分のときの作業場としても利用するとのこと。まだ世に出ていない、企業からの依頼で制作している作品も垣間見ることができました。

アトリエはどのドアもアルファベットがデザインされ鮮やかな色に塗られていました。さすがと言えるお洒落さですが、利用者にとって部屋をわかりやすくするための環境整備だと原田さんは説明します。一部屋3名ほどで利用しているこのアトリエ。それぞれの机にはそれぞれが利用する画材や裁縫道具がきれいに置かれ、壁にはそれぞれの作品が飾られています。



個性や「できること」が引き出されるように隅々まで考えられている空間を受講生たちは感動しながら見学し、原田さんの説明やエピソードに聞き入っていました。

見学に続いて、障がい者の働く環境を改善したい、仕組みを変えていきたいという思いを持って、福祉と創作活動、社会とのつながりを独自の発想で推し進めてきた原田さんのお話を詳しく聞かせていただきました。





就労支援B型事業所であるPICFA利用者のお仕事は創作活動。なぜ創作活動を行うかというと、障がいのある人が「主導」で進めることができ、やりたいこと、終わることを「自己決定」できるからだそうです。必要なのは「その人らしさの支援」。利用者のやりたいことを叶えるために、尊厳を大切にし、障がいの特性やそれぞれの個性を知り、環境を整えたり、社会の理解を促したりすることがスタッフの役割とのこと。創作活動の中で表現された「その人らしさ」は作品として施設の外に発信されていきます。絵画の販売やリース、イラストの提供や壁画の制作、オリジナル商品の販売や企業とのコラボレーション商品の制作、ライブペイントやワークショップなど、アートを通じた仕事が利用者と社会を結びつけます。


また、創作活動は生活支援の媒体であると原田さんは伝えます。パレットをきれいに洗えるようになると、お皿を洗うこともできる。筆をきれいに洗えるようになるとフォークを洗うことは容易い。創作活動で身につけたことは利用者の生活の中で活きて、人生を広げていきます。
 



病院内で地域の人たちが集まれる場をつくり、アートを通して社会とのつながりを広げ続けているPICFAの目指すところは、地域と意識的に連動して地域振興の新たな糸口、地域資産となることだと原田さんは話します。訪れる人から町の話しや困りごとを聞いたり、小学生と利用者の交流が思いがけない変化を生んだりする中で、教養が広がり、地域の問題を解決できる場所となっていくことを感じているそうです。福祉の概念を変えたいという原田さんの思いは、社会に更なる変化を与えることになりそうです。




原田さんからアートマネジメントを学ぶ受講生たちに、人を突き動かすような高揚感、自分自身がわくわくドキドキする気持ちを持つことの大切さ、そして、これからプランニングをするにあたって誰に楽しんでもらいたいのか、主役は誰であるのかを忘れなければ、人が集まって楽しめることができるのではないかとメッセージが伝えられました。PICFAは施設やスタッフではなく、メンバーが主役であると原田さんは語ります。実際に活動する場所の中で、原田さんが切り開いてきた道、その思いを知ることができた受講生にはそのことが深く理解できたことと思います。

貴重なお話は受講生にとって新たな刺激、高揚感につながったのではないでしょうか。この時間に得たものをそれぞれのこれからに活かしてもらいたいです。
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